
VALENTINA LISITSA LIVE 【DECCA輸入盤】
2012年/ヴァレンチナ・リシッツァ(ピアノ)

個人的所有は勿論、演奏会や録音でベーゼンを愛用しているピアニストに共通して言える事ですが、やみくもに強打することなく、力の抜けた柔らかいタッチから、美しく響かせるスイートスポットを心得た奏法で、とても綺麗な音色を奏でてくれますね。
世界的な一流バイオリニスト、ヒラリー・ハーンが来日した際のピアノパートナーとして彼女を指名したのもナルホド頷けます。二人の共演はアイヴス・ソナタ集としてグラモフォンから発売されています。使用ピアノはこちらも同じくベーゼンドルファーです。
これからも更なる活躍が期待される、目が離せない世界的ピアニストの一人と言えるでしょう。

精霊の主題による変奏曲~シューマンリサイタル
2011.10.19発売 2CD / アンドラーシュ・シフ(ピアノ)

そして、2010年のシューマン生誕200年の記念の年に録音されたこの最新版は、どの曲も繊細で力強く知性を感じさせる演奏です。1曲目の蝶々は1977年に来日した際、スタインウェイで演奏されたものと聴き比べたり、同じ蝶々や幻想曲、子供の情景は同じベーゼンドルファー・インペリアルで録音しているオピッツの演奏と聴き比べたりして楽しんでいます。
シューマンの作品は技巧的にも難しいと言う印象の中、シフの演奏は各音がまるで踊っているかのように華やかで、躍動感に満ちています。彼自身が大好きだと語っているシューベルトや先のベートーヴェンとはまた違った演奏(作曲者が違うので当たり前と言えばそうなのですが)で素晴らしい!の一言です。
シフは9年ぶりとなった2008年の来日に続き、このシューマン作品の録音を終えた直後の2011年2月の来日では、バッハの平均律2巻の全曲演奏を行いました。その他パルティータ全曲やフランス組曲などと言ったバッハの難解な大作を常に殆どノンペダルで暗譜演奏を貫くシフの頭の中を覗いて見たい!と思ってしまいます。
またシフは、音楽之友社刊「ムジカノーヴァ」の対談記事の中で、世界のコンサートホールの常設ピアノの大半がスタインウェイになってしまっている現状を深く憂いています。「スタインウェイはいいピアノですが、なぜそれがスタンダード化しなければならないのか。少なくとも私にとって、シューベルトやモーツァルトを演奏する際、ベーゼンドルファーはとても素敵な楽器です。ピアノにもいろいろな響きがあっていい。全ての作曲家の作品をスタインウェイの響きで弾く、そして聴くと言うのは、音楽的な体験を貧困にすると思います」。と注目発言をしています。
ともあれ、僕のCD棚にはシフのアルバムが増えていくばかりです。

リスト パガニーニ・エチュード(完全盤)
【徳間ジャパンコミュニケーションズ】 01.1.24 発売
リスト 「巡礼の年」「子守歌」
【徳間ジャパンコミュニケーションズ】 04.10.27 発売
【徳間ジャパンコミュニケーションズ】 01.1.24 発売
リスト 「巡礼の年」「子守歌」
【徳間ジャパンコミュニケーションズ】 04.10.27 発売
大井 和郎(ピアノ)


また、 “ペトラルカの3つのソネット”はどの曲も難易度が高く、104番や123番の美しい旋律と高まりに胸が熱くなり惹き込まれてしまいます。
この2作品とも、三鷹市芸術文化センターのベーゼンドルファーで録音されています。その他、ピアノ学習用としてとても参考になる小品を集めた「乙女の祈り」も同様にベーゼンドルファーが使用されています。この他にもクーラウやハチャトリアン作品など現在8枚をリリースしています。
ちなみに、2007年アニメ版「のだめカンタービレ」ではリストの“メフィストワルツ”や“鬼火”を千秋の吹き替えとして演奏収録したそうです。

ピアノリサイタル2 ドビュッシー「版画」【ライブノーツ】
'10.1発売/諸田 由里子(ピアノ)

デビュー作をこのコーナーで紹介したのがきっかけで始まった交流で、音楽に向かう真摯な姿勢と謙虚なお人柄に触れることができました。「表現力を高めるにはどうしたら良いのか」を常に自分に問いかけながら模索を続ける諸田さんは、日頃から陶芸や絵画、演劇など芸術文化に触れておられます。そうした姿勢が単に技術だけでなく、聴く人に感動を与える豊かな音楽性となって現れるのでしょう。月並みですが実に音がきれいです。まさに諸田サウンドです。今回の録音にも相模湖交流センターのベーゼンドルファーが使用されています。ショパンのノクターンの暖かくて優しい響きとマズルカで見せる時として華麗さの交錯、モ-ツァルトの爽やかな明るさ、ドビュッシーの神秘的な色彩、諸田さんの高い表現力でベーゼンドルファーは様々な表情と音色で応えてくれます。今回もたっぷりと68分間“諸田由里子の世界”へと誘われてしまいました。高い技巧をひけらかすのでなく、あくまで自然体で「楽譜に忠実」とおっしゃる諸田由里子さんの演奏をもっと多くの人に聴いて欲しい・・・

PianismⅡ【CITRON RECORDINGS】
'09.11発売/三柴 理(作曲、編曲、ピアノ)


20年も前になりますが、多少ピアノをかじったことのある当時高校生の息子が、デビューし立ての筋肉少女帯に入れあげていました。その息子がさかんに「彼らの音楽性は凄いよ」と言っていたことを思い出します。当時の僕には、ただ騒々しいだけの不良っぽいイメージの音楽にしか映りませんでしたが、彼がピアノ&キーボードとして加入していた事や、当時の他のメンバーのその後の活躍ぶりを考えますと、ナルホドと納得させられてしまいます。そんな彼がいつもベーゼンドルファーにこだわってくれることは嬉しい限りです。

ナチュラル フロウ~ピアノヒーリング~【ブリフォニック】
'07.11発売/仲野 真世(ピアノ)

このアルバムは、単に癒しのヒーリングピアノと呼ぶにはあまりにもピアノの響き、メロディ、録音装置・・・全てにおいて完成度が高く美しいものです。
制作会社であるブリフォニック社が総力をあげ、先端デジタルと究極のアナログを融合させ、凝りに凝った録音機材や音源で完成させた新時代のDSDマルチトラックレコーディングCDを誕生させました。そのスタッフ、ピアニストがこだわって選んだピアノがベーゼンドルファー・インペリアルです。ジュエリーデザイナーとしてのもう一つの顔を持つ仲野真世が奏でる艶やかで、膨らみのあるソフトな音色はまさに真珠を連想させます。
1曲目の“出会い”で始まる四季を織り込んだ本人書き下ろしの全13曲は、3~4分の一連の小品集であり、ナチュラルでピュアな演奏は聴く側のイマジネーションをかきたててくれます。少年時代、奔放に遊んだ田舎の野山や川べりに寝転んで、目を閉じながらこのアルバムを聴いたとしたら、果たしてどんなシーンが蘇えってくるのだろうか・・・
姉妹作「スカビオサ」は仲野のピアノにTorioが絶妙に絡んだもので、こちらも音楽ファンのみならずオーディオファン必聴と言える秀作です。
とにかくベーゼンドルファーの音色が素晴らしい!

ベートーヴェン:エロイカ・ヴァリエーション【ライブノーツ】
'03.4.25発売/廻 由美子(ピアノ)

「ムジカノーヴァ」o7年11.12月号の2回に渡って“青柳いづみこの我が偏愛のピアニスト”にお二人の対談が紹介されていました。それによると、7作目のこのベートーヴェン以降の録音から、「バスが豊かで音のひろがりが素晴らしい」との思いからベーゼンドルファーを使っているそうです。「何かの機会にインペリアルを久しぶりに弾いたら『好きだな』って思った。海みたいな感じがあったのと、パノラマがぱっとこう開ける感じ・・」とも。同じベーゼンドルファーで(【水の音楽~オンディーヌとメリザンド:キング】=これがまたイイ!)を出されている青柳さんは「スピーディでキレの良い廻さんのピアノにある種のゆとりがうまれるようになったのは、ベーゼンドルファーを使い始めたからか。」と印象を語っています。「エロイカ・ヴァリエーション」はニクイ程上手にベースを使ってとても重厚感があって交響曲を彷彿させる秀作です。ピアノソナタ第14番「月光」も収められたこの作品もまたレコード芸術誌特選盤を受賞しています。
その後に発売された「シューベルト・さすらい人」に続く「火の鳥・ストラヴィンスキー=写真下」はピアノ1台とはとても思えない程のドラマティックで躍動感に満ちた演奏と“インペリアル”のオーケストラをも凌駕する程の表現力が見事に融合しています。

「ラ・カンパネラ」~珠玉のピアノ小品集【ライヴノーツ】
'07.2/佐藤 卓史(ピアノ)

秋田市に生まれ現在はドイツ・ハノーファー音楽演劇大学在学中の25歳。
小中学生の頃から数々のピアノコンクールで最高位を受賞。東京芸大附属高3年で日本音楽コンクール優勝、芸大3年時の'05年には第12回ベートーヴェン(ウィーン於)、第15回ショパン(ワルシャワ於)両、国際ピアノコンクールにてディプロマを授与され、更に・・・と輝かしい受賞歴が紹介されています。
先般音楽の友社から5年ぶりに刊行された「ピアノ&ピアニスト2008」でも〔注目の若手ピアニストたち〈厳選〉24〕に上原彩子、小菅優、田村響らと共に名を連ねています。そんな佐藤卓史のソロ・デビューアルバムです。デビュー作には珍しい、全17曲からなる小品集です。素人同然の私にはその半数以上が初めて聴く曲ばかりでちょっと戸惑いましたが、1曲目のバッハの3声のシンフォニア11番を聴いた途端一変しました。いい!と、つい口走ってしまった程の感銘です。曲が進むにつれ、その思いは益々強まって行きます。何と心地良いことか。本人のよくよく考え抜かれた選曲と、自身によって書かれたプログラムノートから音楽に対する見識の高さをうかがうことができます。これだけの作品をとり上げるには、いかに多くの作曲者を偏ることなく勉強しているかの証でもあり、「こんな素敵な作品もあるのですヨ」と語りかけているようです。
そんな彼が録音に選んだ場所は故郷である秋田アトリオン音楽ホールであり、ピアノは常設のベーゼンドルファー・インペリアルだと言うのも、彼ならではの思い入れとこだわりなのでしょう。17曲の殆どが異なる作曲家による作品なのに、一連作のような印象を受けてしまいます。 ベーゼンの持つ、ベールに包まれたような暖かい響きと奥深さは、その特長を充分理解した上での演奏であり、女性的で繊細かつ神秘性をも感じさせます。妙に技巧をひけらかすこともなく、あくまで自然体。とにかく音に色彩があって“きれい”です。
余計な事ですが、このアルバムタイトルには頭を痛めたことでしょう。商業的に「ラ・カンパネラ」とした方が受け入れやすいためかな、と思われますが、サブタイトルの“珠玉の・・(Gems of the Keyboard) ”と言う言葉はその演奏を端的に表わしたピッタリの表現だと思いました。
ぜったいお勧めのアルバムです。

特に今回は同じベーゼンでも最新フル・コンモデル280(88鍵)を使用しての録音とあってたいへん興味深いものです。 “インペリアル”とまた違った趣きと、彼ならではの深い解釈の表現力が随所に堪能できます。「初めて触れるモデルでしたので当初幾分戸惑いもありましたが、やはりベーゼンドルファーとシューベルトの相性はいいですね」と本人のメッセージが添えられていました。

ザ・シドニーオペラハウス リサイタル【KLEOS CLASSICS=輸入盤】
'05.7/パウル・バドゥラ=スコダ(ピアノ)

“ウィーンで生まれ、ウィーンの伝統的な奏法を守り、ウィーン特有のおだやかさ、かろやかさ、そして気高さを音楽に盛り込んだ演奏で定評のあるスコダ・・・”(ムジカノーヴァ〔友社〕’08年1月号、ピアニスト探訪より)。’07年10月「80歳記念世界ツァー」で来日し、年齢を感じさせない見事な演奏でファンを驚かせました。
スコダは歴史的な楽器のコレクターとしても有名で、作品が生まれた時代の楽器を弾くことで、作曲家が求めていた響きを感じることができると言います。そんな彼が、演奏会や録音で特に好んで使用しているのがベーゼンドルファーのピアノで、その作品は膨大な数に上りますが、その中から敢えてお勧めしたいのがこのアルバムです。スコダ55歳の頃の‘82年シドニー・オペラハウスでのライブ盤です。ベーゼンドルファーが彼の手によって、時にはチェンバロを彷彿させる純粋無垢な響きを奏で、神々しさと安らぎを与えるバッハのパルティータ第1番に始まり、ブラームスのソナタ3番は5楽章からなる壮大な作品で、一転して朗々とダイナミックに謳い上げる力演が30数分続きます。最後はスコダのレパートリーの中でも私が最も好きなドビュッシー、版画。怒号のようなアンコールの嵐に応えたのは同じく喜びの島で、大喝采の中フィナーレを迎えます。
スコダはシューベルトやモーツァルトの研究家として数多くの作品を残しています。
これらはスコダの定番として多くのファンや専門家から名盤として支持されています。
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